今井凌雪
今井凌雪(潤一)は大正11年奈良県奈良市に生まれます。駸々堂に入社し辻本史邑に師事します。同時代の書家は青山杉雨、西川寧、金子鴎亭、梅舒適、小林 斗盦らがいます。立命館大学を卒業後大東文化大学、東京教育大学、筑波大学で教授を歴任し大東文化大学書道文化センター所長を務めます、中国でも書道の研究を続け浙江中国美術学院客員教授、上海復旦大学で教授を務めます、大変研究熱心な書家であり教育も力を入れNHK教育テレビでも「NHK趣味講座~書道を楽しむ」などの番組で書道の講師を務めます。また書家として有名な仕事は黒澤明監督の「乱」「夢」「まあだだよ」の題字を揮毫したことです。昭和58年日展で文部大臣賞、奈良県文化章、勲三等瑞宝賞などの栄誉ある勲章を受章し平成23年に88歳で逝去します。
今井凌雪は大変熱心な書家でありながら書道を芸術と捉え表現することに腐心しておりました、書道はまとまった文字を借りて美的表現をすることにあり、それは「文字による命の具象化である」とまで言い切り芸術的思考も大変深かったと思います。と同時に学者肌の冷静な分析力もありました。その視野の広さは青山杉雨、西川寧らの書壇だけでなく同時期の芸術家である会津八一、中川一政、清水比庵、棟方志功などの書道作品も鑑賞しており芸術家の書道作品が認められることにも一定の理解を示しています。
また書壇、展覧会が技術競争になってしまうことに危機感を抱き支配関係が強すぎるので新しい芸術が育たないと警鐘を鳴らしています。今井凌雪のこうした柔軟な発想は当時の書家に大変人気があり杉並区で30年以上買い取り、査定をしています当社もよく今井凌雪の掛軸、色紙作品は査定の対象になります。内部に対して深く洞察しつつも外部との連携を志向し続けた思索の深い書家であると言えます。「本来学者と芸術家は両立しないものですが今井凌雪は日本では珍しく両者を兼ねそろえた書家です。」と辻本史邑に師事した村上三島も評しています。こういった書家がつい最近まで活躍していた、という事実を知るたびに一度会ってお話を伺いたかったとついつい思ってしまいます。
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参考文献 今井凌雪 「書を志す人へ」 二玄社